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北欧ときめき情報〜Wind from the north Vol.9

Vol.9 《共生》を考える

真っ暗な冬至から2か月が過ぎ、太陽が沈まない白夜の季節まであと4か月。北欧は「とても寒いのに明るい」という不思議な季節を迎えました。青い空が夕方にはバラ色に染まり、その色が山の雪に映って、幻想的な美しさです。

数年前のある日、いつものように、オスロの大きな書店の児童書コーナーで親子連れに交じって絵本を読んでいました。ノルウェー人親子の関係はなかなか興味深く、児童書コーナーの快適なソファに座りながら、絵本を読み、親子を観察するのは、当時、私の楽しみのひとつでした。絵本を何冊か読み終わって、少し大きな子どものための本棚で出会ったのが、今回ご紹介する『わたしだって、できるもん!』の原著の中の1冊でした。少女クリスティーネの写真を見た瞬間、その写真絵本は私にとって大切な本となりました。ダウン症の少女クリスティーネが、家族、幼稚園、学校、ノルウェーの自然の中で成長していく姿には、私が経験し、最も心を動かされた、ノルウェーの《共生》の在りようが映し出されていたのです。そして、それは私が学び、実践しようとする音楽療法の考え方とも相通ずるものでした。あれから5年以上がたちました。拙訳ですが、訳書を出版していただくことができました。しかも、3冊の写真絵本が1冊の大人向けの本になり、多くの方々の目にふれることができるようになりました。一人でも多くの方に《クリスティーネの笑顔》をご覧いただければこのうえない喜びです。
  • わたしだって、できるもん! リンダ・リッレヴィーク 文
    シェル・オーヴェ・ストールヴィーク 写真
    井上勢津 訳
    深海久美子 手話監修
    村越陽菜 手話イラスト
    新評論
    2009年1月刊
    ISBN 9784794807885
    定価 本体1800円+税

ホンモノの先生

ノルウェー国立音大に留学して驚いたのは、とにかく学内の演奏会が多いこと。毎夕、音大の大小2つのホールはフル稼働です。教員や学生による演奏会は、たとえそれが試験演奏会であっても楽しく、和やかな雰囲気が魅力的でした。そんな演奏会でよくお見かけしたお一人が、当時、ピアノ科教授だったリヴ・グラーセル先生。演奏会が終わると必ず演奏者のところに行き、笑顔で話される姿は当時から印象的で、学内の演奏会で演奏をした友人からも「初めて話をしたけれど、とても的確なアドヴァイスをもらった」と聞いたことがありました。また、先生はノルウェー人としてはとても小柄です。その先生が身長180cmをゆうに超す男子学生たちを見上げて話される姿はとてもチャーミングなのです。そんな素敵な先生とごいっしょさせていただいたのが、このCD制作でした。私はレコーディングに通訳として参加させていただき、ブックレットには文章も書かせていただきました。2007年に没後100年を迎えたノルウェーの作曲家グリーグとバッケル=グレンダールの作品集です。力強く、透明感のある、「ホンモノ」のノルウェーの音です。

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イラスト:村越陽菜(むらこしはるな)