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北欧ときめき情報〜Wind from the north Vol.5

Vol.5 スウェーデンの作曲家を知っていますか?

日本は夏の真っ盛り。でも、北欧ではもうすぐ秋が始まります。これからはベリー類が色づき、おいしくなる季節。そして、きのこ狩りも始まります。ベリーのジャムやジュースを作ったり、きのこを干したりして、自然のめぐみを冬のために保存します。夏が終わってちょっぴり寂しく、それでいて楽しいこともいっぱい、私の大好きな季節です。

北欧の作曲家をご存知ですか?と尋ねられると、グリーグ、シベリウス……えーっと、ニールセンも北の方の人だったような……。多くの方はきっとこのあたりで止まってしまうはず。それではスウェーデンの作曲家は? う〜ん……。日本では全くといっていいほど知られていませんが、スウェーデンにも素敵な音楽作品がたくさんあるのです。強い立場にあった大国スウェーデンには、支配される側であったノルウェーやフィンランドの作品のように民族的な要素を用いた、民族のアイデンティティーにかかわる作品は多くありません。このため、スウェーデン音楽は民族音楽や伝承詩などの特別な知識がなくても理解しやすいのが特徴です。またスウェーデンは平地が多く、自然が人に優しく、このこともスウェーデン音楽の柔らかく、美しい響きに影響しているように思われます。もっと日本で知られてもいいのにと思っていたところ、スウェーデン音楽に関する書籍が出版されました。スウェーデン音楽の概説から始まり、残りの大部分が作曲家辞典となっているたいへんな労作です。お薦めのCD(輸入版)紹介もあり、日本語で読むことのできるスウェーデン音楽に関する唯一の本格的な書籍です。タイトルにもあるように、スウェーデンは「歌の国」。往年の名歌手ニルソン、イェッダ(ゲッダ)や現代最高のメゾソプラノ歌手のひとりオッターをはじめとする国際的な歌手を輩出した音楽の国です。

ひとりの命を救うものは、世界をも救う

ノルウェーのほとんどの港には平和を希求する母子像などが海に向かって立っています。1940年、海の向こうからやってきて、平和な生活を奪ったのはナチス・ドイツ。多くの港町には今もレジスタンス博物館があり、小さいながら、その町のレジスタンス運動の記録が展示されています。隣国デンマークも第2次世界大戦中、ドイツに占領されました。今回ご紹介する物語はドイツ軍がデンマークにやってきた1940年4月9日から始まります。ドイツの占領下で主人公の少年バムスの家族は揺れ動き、しだいにレジスタンス活動へと加わっていきます。細かい部分はフィクションのようですが、7000人余りのユダヤ系デンマーク人を10日間で中立国スウェーデンへ移送したというレジスタンス活動の記録に基づいて書かれています。作者トクスヴィグの祖父母は実際にレジスタンス活動にかかわっていました。主人公バムス少年はトクスヴィグの父親がモデルとなっています。女優であった祖母が、家にかくまっていたユダヤ系デンマーク人を守るために自らの美しい足に傷をつけ、ドイツ親衛隊を相手に大芝居をうったという話は、バムスの母親に置き換えられ、物語の中に登場します。全編、息もつかずに読んでしまう緊張感のある展開です。「ヒットラーのカナリヤ」とは、戦時中、イギリスのBBC放送がデンマークのことを「ヒットラーの(籠の中にいる)カナリヤ」とたとえたことに由来します。平和について考えることが多いこの時期に、ぜひ読んでいただきたい児童書です。
  • ヒットラーのカナリヤ サンディー・トクスヴィグ 著 / 小野原千鶴 訳
    小峰書店
    2008年8月刊
    ISBN 9784338144254
    定価 本体1500円+税

ノルウェーサーモンを通して考える

スーパーマーケットの魚売り場に行くと、必ずと言っていいほど目にするのがノルウェーサーモンやサバ。築地市場にはノルウェー国旗のついた箱がたくさん積まれています。あの魚がどこで育ち、どうやって私たちの食卓にまでやってくるか、ご存じですか。私は恥ずかしながら、ノルウェーの水産業についてはこの漫画を読むまでは漠然としか知りませんでした。この漫画を読んで、ノルウェー人が自然との共生を考え、ハイテクノロジー、倫理感、政治的な決断によって、いかに水産業を守っているかを知りました。無駄がなく、無理をしないという点でノルウェーの福祉や教育と通ずるものがあり、納得することばかり。また、これは環境問題への取り組みへもつながる重要なテーマでもあります。この人気漫画がきっかけで、ノルウェー人の考え方が少しでも多くの方に伝わったかも知れないと思うとうれしいかぎりです。

バックナンバー

  • 坂元 勇仁
  • 井上 勢津
  • 田中 エミ
  • 国崎 裕

イラスト:村越陽菜(むらこしはるな)