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童謡ってすてき!! ~ 童謡歌手がお贈りする 私のお勧めの5曲

童謡、それは子どもたちのための歌の宝庫。
その中から現代を代表する童謡歌手たちが選りすぐり、「わたしのとっておきの歌」をご案内します!!

雨宮 知子

こころと詩を大切に歌っています

山梨県出身。父母の働く桃畑で土や草や虫と遊んで育つ。はじめて畑で歌った「みちのくひとり旅」(歌:山本譲二)を父に「てっ!うまいもんじゃん」とほめられ舞い上がり歌いこむ。東京へ上京後、作曲家伊藤幹翁さんに出会い音楽の世界へ。以後二十数年にわたり師事。「ミュージックフェスティバル2000」童謡部門グランプリ最優秀新人賞受賞。BS日テレ「それいけ!アンパンマンくらぶ」に知子おねえさんとして出演。2012年、日本童謡賞特別賞受賞。小学館出版『ベビーブック』DVDの歌、ベビークモンで歌を担当。2022年から故郷にて「みんなでうたうコンサート」を開催。全国に広めていくのが夢。歌うことでたくさんの人と繋がっていけることに感謝しています。一人でも多くの方とご一緒できたらうれしいです。

おかあさん! 作詩:星乃ミミナ/作曲:伊藤翁介

小さいころから母のことがものすごく好きだった。「人はいつか死んでしまう」と知ったとき、その「いつか」を想像してふとんの中で毎夜おいおい泣いた。それならさぞかし親孝行な娘だったろうと思われるだろうが…。ここに書くのは憚られるほど、わがままで自分勝手、心配ばかりかけてしまった。母はすっかり歳をとり、そんな話をしてもあまり覚えていないようだ。それならなかったのと同じか?とホッとしながらも、何だか少しさみしい…。

「おかあさん!」この作品に出会ったとき、まるで自分のことのようだなと思った。作詞の星乃ミミナさんは「おかあさんだけじゃなくてね、おとうさんのことも思って書いたのよ。育ててくれた人みんなへの思いを”おかあさん”という言葉にたくしたの。」と話してくださった。ちいさい子にもわかるやさしい言葉で綴られていて、聞いても歌っても心がほっこりと和らぐ歌だ。

春の小川 文部省唱歌

子どものころ学校で教えてもらった「春の小川」。どうやら教科書をまじめに読まなかったらしい。「咲けよ咲けよとささやきながら」を「酒よ酒よ」と歌っていた。つまり春の花見でみんなが浮かれて酒を飲む歌だと思っていたのだ。ちゃんと歌詞を読めばわかることだったのに、私のこのいいかげんな、よく言えばおおらかな?性格はあのころからだったらしい。とほほ。

大人になり、まさかの歌手になり、この歌に再会したときの衝撃は忘れられない。こんな可憐でかわいらしい歌だったとは!そして思う。わけがわからなくても、意味なんてわからなくても、こころにまかれた小さな種が10年後20年後にパッと花ひらくことがあるんだと。どうかたくさんのすてきな歌が子どもたちに届きますように。

とんぼの思い出 作詩:こわせたまみ/作曲:中田一次

子どものころ、ありんこはどうしてみんな迷わずに自分たちの穴にもどれるんだろう?、と不思議だった。あるとき「なにかにおいを出しているのかも!」と思いつき、すり鉢に次々とありんこを投入、すりつぶして水を混ぜ怪しい液体を作った。それを地面にまいてありんこを誘導できるかやってみると…結果、ありんこは私の作った道などふりむきもしなかった。

その夜、部屋の電気を消すと暗闇に浮かぶ点々がありんこに見えた。ありんこはどんどんふえていき、くっついて巨大ありんこになっておそってきた。いのちを大切にしなかった罰だと泣きながら猛省した。

「とんぼの思い出」を作詩されたこわせたまみさんもそんな幼少期だったのだろうか。だとしたら私のこころのどこかにある記憶からも、いつか作品が生まれるかもしれない。確かセミにもひどいことをしたような…。

さとうきび畑 作詩/作曲:寺島尚彦

童謡や唱歌に「おかあさん」はたくさん登場するが「おとうさん」はとても少ない。たまに出てきても、どこにいるかわからなかったり、死んでしまっていたり…悲惨だ。「おかあさん」との差がこんなあって良いものだろうか?

とはいえ私も父を亡くすまで「おとうさん」の偉大さありがたさに気づけなかった。「おとうさん」は大きな船のような存在で、家族はその船の中でいつも安心して暮らしていたのだと知った。愛情のかたちが大きすぎると近くにいても目に見えず、言葉や詩に表現されることが少なくなるのかもしれない。

作者の寺島尚彦さんは「ざわわ、はね、さとうきび畑が風にゆれているようすだけじゃなく、沖縄の大地にうごめいている魂を表したかったんだ。」と話してくださった。ざわわ ざわわ ざわわ…。切ないほどに「おとうさん」を感じる一曲です。

目をとじて 作詩:うらさわこうじ/作曲:伊藤幹翁

小六の娘が「〇〇ちゃんは走るのが早くて美人で勉強もできてカンペキなの。私もあんな子だったらよかったな〜。そしたらどんな夢でもかなうのに」と言う。「ママのことカンペキだと思う?」「思わない」やっぱりバレていたか…。「じゃあそんなママが夢をかなえて歌手になれたのはなぜでしょう?」それは助けてくれる人がいたから、カンペキじゃなかったからだよ、と伝えてみた。

「めをとじて」の作曲者 伊藤幹翁さんは「人は生まれたときから悲しみをリュックに背負っている」とおっしゃっていた。カンペキじゃないことは悲しみかもしれないけれど、そんな悲しみを背負いながら夢を追いかけたいと思う。娘の未来にひかりがあふれますように、と願いながら歌っている。

楽譜・音源情報

渡辺 かおり

いつも心に自然に入ってくる“ミネラルウォーター”のような歌声

武蔵野音楽大学器楽学科ピアノ専攻卒業。大学在学中にNHK教育テレビ『ワンツー・どん』で歌のおねえさんとしてデビュー。NHKテレビ『みんなの童謡』では最多歌唱出演をした。その他、NHKラジオ『おはなしの旅』、『こどもちゃれんじ ほっぷ』(ベネッセ・コーポレーション)、ミュージカル『ひめゆり』などに出演。
ディズニー『バンビ2 森のプリンス』では挿入歌「春のはじまり」を歌唱した。
東京ニューシティ管弦楽団、京都市交響楽団などのオーケストラと多数共演。童謡、唱歌、叙情歌などを中心に、幅広くレコーディング、CMソング(「救心」では歌手・稲村なおこさんと歌唱)やコンサートで活動中。ミュージックフェスティバル2005童謡グランプリ受賞、第36回 日本童謡賞特別賞受賞。2012年NHKカルチャー(NHK文化センター 青山教室)にて童謡講座を開催した。また「カワイうたのコンクール」では、コメンテーター及び審査員を務めている。現在、十文字学園女子大学非常勤講師。童謡ソロCD「いつまでも」「ありがとう」「あじさい」「奇跡」を発表、好評発売中。
青空のような、ミネラルウォーターのような彼女の歌声は、いつも聴く人々の心をあたたかく豊かに包み込んでいる。

サッちゃん 作詩:阪田 寛夫/作曲:大中 恩

友だちや初恋の子が突然引越してさみしい思いをした方はいらっしゃるはず。「サッちゃん」は詩人の幼い頃の実体験をモチーフに書かれました。

昔、私がリハーサルで歌い終えた時、『おかあさんといっしょ』の初代うたのおねえさんの眞理ヨシコ先生から「“サチコ”の“チ”は無声で歌うのよ」と。すぐに口ずさんでみたら、あら!不思議。「なんて美しい日本語になるのだろう」と、目が覚める思いでした。大先輩からのアドバイスをとても有難く思いました。今、私もそんな思いで学生さん方へ伝えています。

作詩・阪田寛夫先生と作曲・大中恩先生は従兄弟。「おなかのへるうた」、「おとなマーチ」などの名曲があります。2006年保育士試験課題曲でした。

故郷 作詩:高野辰之/作曲:岡野貞一

学校教育用の歌として作られた文部省唱歌は文語体の詩、素朴なメロディーから、今や古き良き日本の風景や時代を知ることが出来ます。長い間、作詩・作曲者不詳とされてきた「故郷」も文部省唱歌の代表曲のひとつ。ゴールデンコンビ高野辰之・岡野貞一の作品で「あなたの好きな歌」などの全国アンケートで、必ず1、2位に入っています。

亡き父が「涙が出てしまうんだ」とよく言っていたのを思い出します。私の結婚式で私からのリクエストに応え先輩が歌ってくださった時も、涙していました。コンサートではハンカチで拭っておられる方々も多く、また、一緒に歌いあげた時の一体感は格別で、この曲の持つ強さを感じてなりません。大切に歌い継ぎたい曲です。

ともだちはいいもんだ 作詩:岩谷時子/作曲:三木たかし

劇団四季ミュージカル『ユタと不思議な仲間たち』の劇中歌。同年にNHK『みんなのうた』で放送され、合唱曲としても歌われています。

NHK教育テレビ『ワンツー・どん』のうたのおねえさんとしてデビューが決まった私と入れ替わり、番組終了を迎える「うたのおねえさん」が最後に選んだ曲でした。この曲はまさに子どもたちへのメッセージと、自分自身への気持ちに寄り添ったもの。詩とメロディーがしっかりリンクしていて鳥肌が立ちました。彼女が最後のレッスンを終える時には、私もすっかり覚えてしまい、心に深く刻まれていました。

それから数年が経ち、偶然この曲の楽譜と出逢って大感動!即購入してそれ以来、子どもたちとの最後のレッスンでは必ずこの歌を一緒に歌っています。

あじさい 作詩:内海 萌/作曲:若松 正司

平成15年に兵庫県龍野市(現たつの市)で開催された第19回「三木露風賞新しい童謡コンクール」日本童謡まつり実行委員会賞受賞作品。初演は私のデビュー番組の先輩でもある稲村なおこさん。この曲は私も大好きで自分のオリジナルCDや YouTubeほかで沢山歌っています。

作詩の内海萌さんは当時13歳。みずみずしい感性であじさい、かたつむり、なめくじを楽しく描いています。作曲は義父の若松正司。ユニークな登場キャラクターたちが表情豊かなメロディーで動き出し、ピアノの伴奏は見事に全ての楽器が浮かび上がる様なオーケストレーションを感じ、まるで物語の世界にいるかのよう。ぜひ、色んなバージョンで楽しんでください。

奇跡 作詩・作曲:若松 歓

私の4th童謡CDの折、オリジナル曲として依頼。今は、合唱曲としても親しまれています。

作詩・作曲をした夫である若松歓は「宇宙の存在そのものが奇跡であり、また150億年とも言われる膨大なその時空の中、私たち人間が出会えた瞬間もまた奇跡です。この小さな星のもと、共に存在し出会えた素晴らしき奇跡を、お互い認識して歩いていきたいものです。」と、語っています。

この曲が誕生して4年後にやっと授かった息子。「命が授かることは当たり前のようでいて、奇跡なこと」と医師に言われ実感したのを思い出します。そして「敬愛する方々」との別れを思うと、出会えたことは本当に"奇跡"であり、それらを胸に抱き歌っています。

楽譜・音源情報

川口 京子

言葉が情景をつむぐ文学系歌唄い

幼稚園時代、上野耐之氏(中国地方の子守唄の元唄を山田耕筰に紹介した声楽家)から歌を教わる。以後二十数年に亘り師事。師匠がいつも言っていた言葉は「話すように歌いなさい」「口先だけで歌うな」「声自慢の歌い方はするな」など。中学高校時代、歌舞伎、文楽、映画が好きになり早稲田大学第二文学部に進むが、卒論が書けずあえなく中退。紆余曲折を経て、藤田圭雄氏の唱歌と童謡に関する講座の助手兼歌い手を務めたことをきっかけに歌の道に入る。その後も阪田寛夫氏、小島美子氏、松永伍一氏、永六輔氏のレクチャーコンサートで歌い手を務める機会に恵まれ研鑽を積む。現在、日本歌曲、童謡、唱歌、抒情歌、民謡、子守唄、流行歌から外国曲まで、多岐にわたるレパートリーを駆使してコンサートを行っている。採り上げる歌の背景や成立のいきさつ、エピソードなど関連する情報を可能な限り調べ、詩を読み込み、音を辿って行くうちに、その曲の肝というか神髄が見えて来る瞬間がある。そして本番、お客様と演奏者それぞれの「想い」や「念」のようなものが混じり合って立ち昇り、その歌の魂が降りてくる。明治・大正・昭和期の作家の作品、現代作曲家や詩人の新作、それぞれに命を吹き込む作業は楽しい。外国曲の訳詞をもう一度見直す作業も面白い。体力不足で活動量は少ないが、それなりにお役に立てればと思っている。

CD 「帰去来」「碧瑠璃の空に」(私家版) 「さくら」「月」「母の歌」(日本コロムビア) 「この子の可愛さ」(日本子守唄協会) 「逢いたい」(Kクリエイト)など。
CDのお問い合わせは 弱虎舎(03-5382-2241)まで。

ゆげのあさ 作詩:まど・みちお/作曲:宇賀神光利

昭和35年、私が通っていた幼稚園に上野耐之という先生(当時59才)がいました。ユーモアのある一風変わった声楽家で、どんな子供でも(私の様な発達障害気味の子供でも)受け止めて笑わせて褒めて下さるのでした。その先生に教わった沢山の歌の中に「ゆげのあさ」がありました。

寒い冬の朝、口から湯気が出るのが子供の私には面白くてたまらなかったのですが、それが歌になっている!!♪はなからくちから ぽっぽっぽ ぽっぽっぽ♪大のお気に入りの歌になりました。

大人になってから、この歌の詩を書いたのが敬愛するまど・みちお氏で、作曲が「ろばの会」の宇賀神光利氏であることを知った時は大感激!!さらに、戦後間もない昭和20年代、上野先生が宇賀神氏のピアノで小中学校を回って演奏をしておられた事を知り、「ゆげのあさ」への愛着は一層深いものになりました。

夕日が背中を押してくる 作詩:阪田寛夫/作曲:山本直純

この歌の作詞者阪田寛夫氏の著書『まどさんのうた』の中に次のような件があります。「私が生まれ育った大阪の四天王寺は、昔から夕日を見る場所だった。今も、西門前の坂上に立つと、大阪湾に沈む立派な夕日が大きな夕やけの中で見られる。」

少年時代、日が暮れるまで夢中で遊んだ寛夫君と仲間たちは、大阪湾に沈む「でっかい夕日」を背中に受けながら家に帰ったことでしょう。「夕日が背中を押してくる」という斬新な表現、「晩ごはんが待ってるぞ」と呼びかけてくる夕日、「ぼくらも負けずどなるんだ」という少年達、それら全てを、山本直純氏の、どこか切なくて郷愁をかきたてるメロディーがみごとに包み込んでいます。歌う度に泣きそうになる名曲です。

里ごころ 作詩:北原白秋/作曲:中山晋平

北原白秋・中山晋平コンビによる大正期の童謡には独特の寂しさと懐かしさを感じさせる作品が幾つかあります。中でも「里ごころ」は、昭和一桁後半から昭和10年代に生まれた方々の中で「いつも母親が唄っていた」と仰る方が大変多く、驚かされます。

小さなコンサートでこの歌を唄った時、最前列で涙をポロポロこぼしている方がおられました。わけを伺いますと「あゝ、母が子守唄のように唄っていた歌だ!と思い出したら堪らなくなって…」との事でした。イラストレーターの南伸坊さんも、母親がこの歌を唄って僕を寝かそうとするのだが、曲調が余りにも寂しくて嫌だったので、この歌が始まると僕は母の口元を手で塞いだ、というような話をエッセイに書いておられました。当時の母親達の心に「里ごころ」という歌がいかに浸透していたかを物語るエピソードです。なお、第3節の歌詞が、楽譜では「おむかえ」となっていますが、白秋の原詩は「おむかひ」です。
(川口京子CD『帰去来』に音源あり)

児島高徳 文部省唱歌

歌好きの私の母(昭和4年生まれ)が、小学校の時習った唱歌だと言ってよく口ずさんでいたフレーズがありました。♪て~んこ~せ~んを~むな~しゅう~するな~かれ~♪ 子どもだった私には、何を言ってるのかサッパリわかりませんでしたが、児島高徳の歌だと言います。(児島高徳の事はサザエさんの漫画に出てきたので絵は覚えていました)。

『太平記』巻の四によると、隠岐の島に流される身となった後醍醐天皇を、忠臣児島高徳が救い出そうとしますが叶わず、やむなく院の庄の行在所に忍び入り、庭に立つ桜の幹を削ってそこに漢詩を書きつけます。「天は勾践を見殺しにはしなかった。この度も必ずや范蠡の様な忠臣が現れて貴方をお救いするでしょう」という意味を込めて…。

伝聞によると作曲は岡野貞一。ドラマチックな旋律で伴奏も非常に良くできています。大正3年の『尋常小学唱歌』、昭和7年の『新訂~』共に合議制で作られていますが、当時の編纂委員達のレベルの高さに感心します。

なお、この児島高徳の話は、太平洋戦争時の忠君愛国教育に利用されてしまったということも忘れずにいたいと思います。
(川口京子CD『さくら』に音源あり)

敦盛と忠度(青葉の笛) 作詩:大和田建樹/作曲:田村虎蔵

明治期の歴史物唱歌の中では抜群に人気の高い作品で、一般には「青葉の笛」という題で親しまれています。源平合戦一の谷の戦で命を落とした平家の公達二人を悼む歌です。

第一節は『平家物語』巻第九「敦盛最期」。平敦盛は源氏方の熊谷直実と一騎打ちとなり熊谷に組み伏せられます。熊谷がとどめを刺そうと相手の顔を見ると、自分の息子程の年頃の若武者であることに気付き、刃をたてるのをためらいます。が、自分が逃がしても誰かに討たれるだろうと思い直し、とどめを刺します。亡骸の腰に笛が差してあるのを見て、直実は「明け方敵陣から笛の音が聞こえてきたが、このお方が吹いていたのか…」と嘆くのでした。その後熊谷は出家したそうです。

第二節は和歌を愛した平忠度の最期。師匠俊成に和歌を託した後、一の谷で討ち死に。持っていた箙には「ゆきくれて木のしたかげをやどとせば花やこよひのあるじならまし」という和歌が残っていた、という話です。

敦盛と熊谷の話は人形浄瑠璃や歌舞伎にもなっていますが、哀れな最期を遂げた者、滅びゆく者を悼み愛おしむ気持ちは、現代の我々の中にも脈々と受け継がれているようです。
(川口京子CD『さくら』に音源あり)

楽譜・音源情報

西山 琴恵

美しい歌の風景へとやさしく誘う、涼やかな歌声

東京杉並の「こどもの国合唱団」(朝倉慶子氏主宰)に10歳より入団。高校卒業まで作曲家湯山昭氏のこどものうた・合唱曲にふれ童謡の美しさ、歌う楽しさを学ぶ。その後、声楽家眞理ヨシコ氏に師事。『あめふりくまのこ』の歌唱で第6回「全国童謡歌唱コンクール」(日本童謡協会/テレビ朝日主催)関東甲信越地区グランプリ受賞し、歌の道にすすむ。第34回日本童謡賞特別賞受賞。童謡ソロアルバム『Pallet』リリース。三世代が楽しめる全国各地のコンサート、新作発表や文化庁小中学校公演に出演。2017年より童謡・唱歌・抒情歌を中心に紹介するラジオ番組「西山琴恵の歌の花束」をAM山梨・西日本放送で放送中。優しく語りかけるような涼やかな歌声が、童謡や日本の歌の美しい情景へと心地よくいざない続けている。近年は、歌を知らない若いお母さんや子どもたちに「うたの心」や「うたう喜び」を携えて、どんな所へでも『歌って伝えて笑顔をつなぐ音楽活動』を展開。発達障害児支援士の資格を活かして、子どもたちの多様性に対応できるよう取り組んでいる。

おかあさん 作詩:田中ナナ/作曲:中田喜直

「おかあさん」「なあに」「おかあさんていいにおい」と、母と子の会話がそのまま歌になったようなメロディー、幼少期にいつも歌っていた大好きな歌です。

田中ナナさんのこの詩をお好きだった中田先生。奥様の幸子先生によると「情緒を育む童謡を歌って育った子どもは決して悪い子にならない」と仰っていたそうです。

親子コンサートでは、ゆったりした優しい歌、リズム感のある元気な歌、新旧織り混ぜて歌のプログラムを考えます。日頃忙しい若いご家族にも親子で歌い合える温もりのある歌を知ってもらいたい、お母さんの匂いをみつけてあなただけの『おかあさん』を歌ってね、と伝えています。

あなたのお母さんはどんな匂いですか?

ヨット 作詩:佐藤義美/作曲:湯山昭

湯山昭先生が子どもに向けて作った最初の歌です。小学校音楽教科書のために3/4拍子のイ短調でハ長調に転調する曲を依頼され、佐藤義美さんの詩を渡されたとあります。

私が東京杉並にあったこどもの国合唱団に入団し、朝倉慶子先生のもと最初に歌ったのが『ヨット』でした。短調の「走る走る走る」の部分は子音をたてて気持ちを前のめりにして歌うと、長調でヨットのスピード感や海の広さを表現できると教えていただき、そうやって歌った時の感動は忘れられません。

数ヶ月後にお会いした湯山先生の目の輝き、練習場が一気に華やぐエネルギーに圧倒され、先生方がご夫婦ということにまた驚きました。

歌う喜び、合唱の楽しさに目覚めた10歳の夏の出来事です。

朧月夜 作詩:高野辰之/作曲:岡野貞一

小学校で習った二部合唱の『朧月夜』。「春風そよ吹く空を見れば」のアルトのメロディーが歌いたくて、私はもっぱらハモリ担当でした。学校からの帰り道、誰かが歌い出すと自然に歌の輪が広がって、友人と歌いながら帰ったなんて、のんびりした時代でした。

『朧月夜』は『故郷』、『春が来た』、『春の小川』、『紅葉』などの名作を生み出したおふたり、高野辰之作詞、岡野貞一作曲の作品です。

靄がかかっているような春の空と一面の菜の花。夕暮れに里山の家々にともる灯り。夜空の月は朧に霞んで、歌全体が淡い黄色に包まれています。春の柔らかな光、のどかさを好む日本人の情緒に合っているのでしょう。

いつ歌っても心を潤してくれる名作です。

くまさん 作詩:まどみちお/作曲:小森昭宏

冬眠から目覚めたくまさんは、自分が誰だか思い出せません。川の水に映った顔を見て、ようやく「ぼくはくまだった!よかったなあ」と自分が自分であることを喜ぶのです。

『くまさん』は演劇集団 円 のこどもステージ「まどさんのまど」(作 阪田寛夫)の劇中歌として1989年に発表されました。演出の小森美巳さんによると、まどさんを一番よくご存知の阪田先生がこの詩を推薦され、後世に残る歌を作ってください、とご主人の小森昭宏先生に託されたそうです。

昭宏先生は「歌詞と歌詞の間にピアノが流れる時も気持ちをキープして」と歌い方のヒントを教えてくださいました。

のんびりゆったりと、くまになった気持ちで歌ってみてくださいね。

こゆび 作詩:こわせたまみ/作曲:林 光

幼稚園の歌のレッスンの時間。対象は3歳から6歳の子ども達です。「赤ちゃん指の小指。お箸は持てるかな?」子ども達は自分の小指を立てながら「持てない」「スプーンは?」「持てないよ」歌詞を追っていくうちに「小指ってなんにもできないんだなあ」と残念そう。すると「ゆびきりはできるよ!」という年長さんの元気な声。そして「ピアノが弾ける」「カバンは持てる」「鼻ほじれる」と色々とでてきます。

作詩のこわせ先生は「小さいもの、弱いもの、普段見過ごしてしまうものの大切さをさり気なく伝えたいんです」と話してくださいました。子ども達の「こゆび」は実感がこもった生き生きとした歌になりました。

「ねっ できるでしょう」と得意げです。

楽譜・音源情報

稲村 なおこ

“春風”のようなあたたかな歌をとどけるシンガー

国立音楽大学を卒業後、NHK教育TV「ワンツー・どん」の歌のお姉さんとして4年間レギュラー出演。(1988~92年)。その後、NHK「やさしい日本語」「みんなの童謡」、テレビ朝日「題名のない音楽会」出演多数。“春風”のように人を繋ぐ温かい人柄で、童謡・唱歌、叙情歌、子守唄、絵本の読み聞かせ、司会など、日本のこころを紡ぐ歌い手として、3世代コンサートを展開中。 2008年より歌の会・『Naochi Village』主宰。尾瀬の郷親善大使を務める。新潮講座、目黒学園カルチャースクール、カワイ音楽教室講師向けおもしろ歌講座、カワイうたのコンクール審査員、国立音楽大学夏の講習会、児童福祉園リトミック講師、スマイルキッズソングチームインストラクターなど幅広く活躍中。「すこやか音楽大賞 最優秀新人賞(98年)」 「日本童謡賞 特別賞(98年)」 「音楽教育振興 特別賞(04年)」を受賞。 CD「心を紡ぐ歌」「天王桜」「さよならぼくたちのようちえん」ほかをリリースしている。 代表作のCMソングに救心製薬。

現在、(社)日本童謡協会賛助会員、NPO法人RMAJ会員、(社)日本抗加齢医学会会員、(社)日本音楽療法学会会員、(社)音楽健康協会会員、音楽健康指導士、口腔機能指導員。 また2021年3月に和洋女子大学大学院博士前期課程修了した。修士(家政学)。 テーマは「歌うことと口腔機能維持について」 。現在、和洋女子大学大学院博士後期課程2年に在学中。

しずかにしてね 作詩:こわせたまみ/作曲:中田喜直

赤ちゃんが静かな寝息を立てて、気持ち良さそうにお昼寝しています。このままそっと寝かせてあげましょう。こわせたまみ先生の優しい眼差しを感じる大好きな詩です。軒下の風鈴…日本の夏の風物詩ですね。チリンチリンと風を感じる涼やかな音色も、たくさんの風鈴が鳴り響いたらどうでしょう?「困った。一日中風鈴の音が気になって、作曲できないよ。」

中田喜直先生が三鷹にお住まいの頃、隣のお宅から聞こえて来る風鈴の音に、時に頭を抱えながら数々の名作を生み出されたというエピソードを、奥さまの幸子先生から伺ったことがあります。「しずかにしてね ふうりんさん ならないでね… 」

ふうりんさんに話しかけるように歌ってみてくださいね。

イルカはザンブラコ 作詩: 東 龍男/作曲:若松正司

小学校1年生向けの音楽番組・NHK教育TV「ワンツー・どん」のオリジナルソング。「イルカはいるか…」東龍男先生の言葉の面白さと若松正司先生の3拍子の美しいメロディです。

東京放送児童合唱団となおこお姉さんが、カウントバッファローズ(音楽監督・上柴はじめさん)の生演奏で歌いながら、2本の長い竹の間をステップするバンブーダンスが人気。竹係を中川ひろたかさん(作曲家・絵本作家)が務めてくださるという「ワンツー・どん黄金期」でした。

32年の幕を閉じても、教科書(2年生)に掲載され「イェーイどんくんです!」のどんくん人気(声・大和田りつこさん)は「40代が選ぶ学校放送番組第7位」にランクインされています。

母と子の子守唄 作詩:藤田圭雄/作曲:早川史郎

「稲村なおこさんの可愛い坊やのために」と一遍の詩が届きました。送り主は、当時、日本童謡協会副会長をなさっていた藤田圭雄先生。「ぼくは ゆらゆら ゆれていた ママのおなかはくらくって…だれかどこかで うたってた」初めての子育てに四苦八苦していたご褒美に、胸が熱くなりました。

のちに、早川史郎先生がモダンな曲をつけてくださって「第15回童謡祭」で初演しました。後半の「お月さんどっち…」のわらべ唄は、生まれて来る赤ちゃんに歌う子守唄です。

ママに早く会いたいぼくの気持ちと待ち侘びるお母さんの思いを想像しながら歌ってみてください。「あなたの歌よ」と毎晩聞かせていた息子も、音楽好きな30歳になりました。

「びっくりしちゃったの」 作詩:佐藤雅子/作曲:中田喜直

「いいもの見せてあげる」佐藤雅子先生が保育園の園長先生をされていた頃、園長室を訪ねて来てくれた女の子がいました。手には、1枚の写真。パパとママの結婚式の写真でした。その時のお話しをまとめて「ろばの会創立20周年記念童謡詩公募」(1976年)に応募されたところ、「あなたの詩に曲をつけましたよ」と憧れの中田喜直先生がお電話をくださったそうです。

「あの時は本当に嬉しくて、びっくりしちゃったわ。」懐かしく振り返られる雅子先生のお声は、まるで少女のように弾んでいました。皆さんも「王子さまとお姫さまだった頃の素敵なパパとママ」の写真を見ながら歌ってみてください。世界でたったひとつのあなたの歌になります。

小鳥のうた 作詩:与田凖一/作曲:芥川也寸志

令和四年度保育士試験課題曲にもなっています。昭和29年発表。作詩は児童文芸雑誌「赤い鳥」(主宰・鈴木三重吉)の編集者として芸術としての童謡を創り上げた与田準一さん。 作曲は芥川也寸志さんです(芥川龍之介さんの三男)。

小鳥のさえずりが印象的な明るい曲なので、弾んで歌ったら、「あっ、そんなに跳ねて歌うと、『こっとり』と聞こえてしまうので、『ことり』と歌ってね。」と中田喜直先生。「作曲家は、何度も何度も詩を読んで、日本語の持つ音の通りにメロディをつけているの。だから歌い手は、半分詩人でいてね。それにしても、いい曲つけたなぁ、芥川さん。」 六本木のお宅での、三十年以上前のレッスン風景のひとこまです。

楽譜・音源情報