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ゆ〜たん音楽堂店主 つぶやき ささやき Vol.10

Vol.10 国のうた

研ぎすまされた剣を手に
鋭き眼差しで大胆不敵に大地を見渡す…

起ち上がれ!
奴隷となりたくない人々よ!
我らの血と肉をもって築こう
我らの新しき長城を…

不幸なアメリカの民を
三世紀ものあいだ 王権が虐げた
だが ある日 民の怒りが爆発し
「もうたくさんだ!ß」と叫び王権を滅ぼした…

ここに書き出した文章、どこからの引用かご存知じですか? 歴史小説? ノンフィクション?? いえいえ、これらはすべて現存する国歌の一部なんですよ。

最初がギリシャ共和国、二つめが中華人民共和国、そして、最後がパラグアイ共和国。
お国が変われば国歌も変わるといったところでしょうか。でも、それにしても勇壮たる内容です。もちろん、国歌にはこのように気持ちをかき立てるものばかりでなく、美しい自然を賛美し、そこに住む人々をたたえるものもたくさんあります。しかしながら、その根底にあるのは、《自分たちが生まれ育った国がいかにすばらしい国であるか》という思いであることには変わりありません。

今夏、北京でのオリンピックでも数多くの国歌が流れ、そのたびに選手たちが感激の涙をながすシーンを見ました。スポーツで国を背負う、という感覚は僕にはよく分かりませんが、きっと、実際あのフィールドに立つと今まで自分が持ち得なかった感覚が急にグッグッとわき上がってくるのかもしれませんね。

国歌を聴く、歌う、あるいは国歌を読み込むという作業にはとてもおもしろい発見があります。歴史、国民性、そして、政治思想などなど、それらがギュッと凝縮しているもの、それが国歌だからです。だからこそ、国歌が時には人の気持ちを支配し、戦いに向かわせることだってあるわけです。

音楽に国境はない……古くから言われ続けている格言ですね。でも、僕は必ずしもそうは思いません。音楽は人と人を隔て、極めてローカルな特色を醸し出し、他者と自分たちとを峻別する機能だって持っていると思うのです。だからこそ、他国の音楽を知る本当の意義があるのです。

皆さんはいかがお考えでしょうか?

時には、こんな本を眺めながら歌の世界旅行を楽しむのも一興かと思います。

*引用の歌詞は『国のうた』の著者 弓狩匡純さんの訳によりました。
  • 国のうた 弓狩 匡純 著
    文藝春秋
    2004年7月発売
    ISBN 4163659900
    定価 本体1,500円+税

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イラスト:村越陽菜(むらこしはるな)