野口雨情特集
「童心」から生まれる野口雨情の童謡
市毛美津子
「烏 なぜ啼くの
烏は 山に
可愛 七つの
子があるからよ」
幼いころ、誰もが耳にしたことのある「七つの子」。この歌の作詞者野口雨情は、明治15年(1882)に茨城県北茨城市磯原町に生まれました。雨情は豊かな自然に囲まれたこの地で、廻船業を営む裕福な旧家の長男として少年時代を過ごしました。
明治29年、進学のため上京した15歳の雨情は、明治34年、東京専門学校高等予科文学科(のちの早稲田大学)へ入学します。学校生活は1年ほどでしたが、ここで生涯の師である坪内逍遥や小川未明などと出会い、本格的に詩作を始めます。
父の死に伴って帰郷した雨情は、衰えた家運を盛り返そうと様々な事業を始める傍ら、詩作を続けます。幼い息子とともに山へ植林に出かけ、そこから「山烏」(「七つの子」の原型)が生まれました。明治40年には北海道へ渡り、新聞記者となります。そこで記者仲間として、石川啄木や童謡「赤い靴」のモデルといわれるきみちゃんの義父鈴木志郎などと机を並べます。
雨情に転機が訪れたのは、大正8年(1919)、37歳の時でした。童謡雑誌『金の船』に発表した作品が好評を博した雨情は、上京し編集に携わることとなります。そこから「七つの子」「赤い靴」「十五夜お月さん」「青い眼の人形」(大正10年)、「黄金虫」「シャボン玉」(大正11年)、「あの町この町」「證城寺の狸囃子」(大正13年)など、今も親しまれている童謡が次々と生まれました。
雨情は作曲者にも恵まれていました。本居長世は「赤い靴」「七つの子」などどちらかというと抒情あふれる、しっとりとした曲調が多くなっています。中山晋平には「シャボン玉」「あの町この町」などリズム感あふれる曲調の歌があります。「證城寺の狸囃子」はその代表です。作曲するときに中山晋平は雨情の詩を修正し「ツ、ツ、月夜だ」というように繰り返しを多用して弾むような曲に仕上げています。
小さなものに向かうやさしいまなざし"童謡とは、童心より流れて童心をうたう自然詩である"との言葉どおり、多くの童謡を雨情は残しました。
野口雨情(のぐち・うじょう)(1882-1945)
詩人。童謡や民謡の作詞も手がける。
茨城県多賀郡磯原町(現在の北茨城市磯原町)に生まれる。1901年、東京専門学校(現在の早稲田大学)に入学し、坪内逍遥のもとで学ぶが1年余で中退、詩作を始める。
1905年、処女詩集『枯草』を自費出版。その後、新聞記者など様々な仕事を経て1919年に詩集『都会と田園』で詩壇に復帰。また、作曲家の中山晋平、本居長世、藤井清水と組み、多くの童謡を発表する。1935年には日本民謡協会を再興し、理事長に就任、日本の童謡や民謡の普及に力を注いだ。
野口の作品は、童謡、民謡、校歌など、合わせて2,000余編にのぼる。代表作は、「七つの子」「赤い靴」「シャボン玉」「証城寺の狸噺」「雨降りお月さん」「あの町この町」など。
No. | 曲 名 | 作 曲 | |
1 | 青い眼の人形 | 本居長世 | |
♪青い眼をした お人形は アメリカ生まれの セルロイド | |||
2 | 赤い靴 | 本居長世 | |
♪赤い靴 はいてた 女の子 異人さんに つれられて | |||
3 | あの町この町 | 中山晋平 | |
♪あの町 この町 日が暮れる 日が暮れる | |||
4 | 雨降りお月さん | 中山晋平 | |
♪雨降りお月さん 雲の蔭 | |||
5 | 鶯の夢 | 中山晋平 | |
♪梅の小枝で 梅の小枝で鶯は 雪の降る夜の 夢を見た | |||
6 | 兎のダンス | 中山晋平 | |
♪ソソラ ソラ ソラ兎のダンス タラッタ | |||
7 | 乙姫さん | 本居長世 | |
♪籠宮の籠宮の乙姫さんは トントンカラリン トンカラリ | |||
8 | 帰る雁 | 本居長世 | |
♪雁が帰る 雁が帰る 雁が雁が帰る | |||
9 | 蛙の夜まはり | 中山晋平 | |
♪蛙の夜まわり ガッコ ガッコゲッコ ビョン ビョン | |||
10 | カッコ鳥 | 山田耕筰 | |
♪山でカッコカッコ カッコ鳥啼いて 山でカッコカッコ | |||
11 | きつねのちょうちん | 山田耕筰 | |
♪きつねの堤灯 ボウ | |||
12 | 木の葉のお船 | 中山晋平 | |
♪かえる燕は 木の葉のお船ネ 波にゆられりゃ | |||
13 | 黄金虫 | 中山晋平 | |
♪黄金虫は 金持ちだ 金蔵建てた 蔵建てた | |||
14 | シャボン玉 | 中山晋平 | |
♪シャボン玉飛んだ 屋根まで飛んだ 屋根まで飛んだ | |||
15 | 十五夜お月さん | 本居長世 | |
♪十五夜お月さん 御機嫌さん 婆やは お暇とりました | |||
16 | 証城寺の狸囃子 | 中山晋平 | |
♪証 証 証城寺 証城寺の庭は ツツ月夜だ | |||
17 | 俵はごろごろ | 本居長世 | |
♪俵は ごろごろ お倉に どっさりこ | |||
18 | 七つの子 | 本居長世 | |
♪烏 なぜ啼くの 烏は山に | |||
19 | 春の唄 | 草川信 | |
♪桜の花の咲く頃は うらら うららと 日はうらら | |||
20 | 風鈴 | 中山晋平 | |
♪風鈴さんが ちんちん鳴ると 涼しそう | |||
21 | ぺたこ | 中山晋平 | |
♪ぺたこ おっかさん しろい ぼうし もろた | |||
22 | もろこし畑 | 藤井清水 | |
♪お背戸の親なし はねつるべ 海山千里に 風が吹く | |||
23 | 四丁目の犬 | 本居長世 | |
♪一丁目の子供 駈け駈け帰れ 二丁目の子供 |
・「合唱:女声三部」は、「童謡・唱歌コーラスワールド特集 第2弾」によるものです。
・「楽譜+シンセ音源 ピアノ伴奏のみ」の音源は、メロディーなしの伴奏だけの音源です。
・「合唱:女声三部」は、「童謡・唱歌コーラスワールド特集 第2弾」によるものです。
同年、日本コロムビア株式会社が発売した「童謡ベスト30」と「日本の歌百選」のCDの音源から、野口雨情の曲を集めました。
KWKW企画が発売した「ありがとう/渡辺かおり 2nd 童謡アルバム」に収録する「七つの子」は、渡辺かおりさんの歌声です。