中山晋平特集
中山晋平と童謡-子どもの歌は、晴れやかなものに-
和田 登
昭和27年(1952年)ひとりの作曲家がこの世を去りました。意識が混濁するなかで、童謡「あの町この町」を歌って。そのひとの名は、信州出身の中山晋平。65歳の生涯でした。彼は、「カチューシャの唄」「ゴンドラの唄」をはじめとするいわゆる歌謡曲や、新民謡の開拓の功績がありますが、何といっても彼が愛し力を入れた分野は、その亡くなる際の様子が如実に示すように、童謡でありました。
事実、今日に歌い継がれている童謡を思い起こせばお分かりいただけると思います。「シャボン玉」「証城寺の狸囃子」「てるてる坊主」等を知らないひとはありません。このような生命力をもっているということは、彼の児童観がしっかりしていたことにもよります。
彼は未来ある子どもの歌は、明るく晴れやかなものでなければならないという信念をもって歌づくりをしていました。
詩人・野口雨情、西条八十、北原白秋とコンビを組んだものが多いですが、たとえば同じ雨情と組んで仕事をした別の作曲家、本居長世の曲と比較してみると、その違いが分かります。「赤い靴」「七つの子」「十五夜お月さん」等の本居の歌は、少女の抒情的感性を優位に取り込んだ"おんな歌"とも呼ぶべき範囲にとどまっています。
が、晋平の歌には、男子女子の別なく歌えるものにしたいという願いが感じとれます。そこに特長があり、生命力の長さも感じるのです。白秋と組んだ「砂山」。この詩には、山田耕筰も歌曲風の曲をつけていますが、この歌に限って言えば、はずんだ調子の晋平作曲の方が勝っています。彼はそれだけ子ども心を意識した詩のもつ精神を感得する力があったからです。
では、そうした詩心を読み取る素養はどこから生まれたのでしょうか。それは若き青年時代、文学志望に燃えていた意外な過去があったことと無関係ではありません。そのくだりについては、拙著『唄の旅人 中山晋平』(岩波書店)をお読みいただければ納得いただけるかと思います。
「唄の旅人 中山晋平」
岩波書店
ISBN:978-4000222129
和田登 | 1936年長野県生まれ。小学校教師を経て、現在、児童文学作家。 著書『キムの十字架』(明石書店)『想い出のアン』(岩崎書店)『唄の旅人 中山晋平』(岩波書店)『松代大本営』(同)『旧満州開拓団の戦後』(同)等多数。 |
中山晋平(なかやま・しんぺい)(1887-1952)
1887年 長野県下高井郡新野村(現在は中野市大字新野)に生まれる。1909年 東京音楽学校ピアノ科に入学。卒業後は小学校の教員を務める傍ら作曲活動を開始、「芸術座」にも参加する。1914年 トルストイの『復活』公演で作曲した劇中歌「カチューシャの唄」が、松井須磨子の歌により大流行する。その後、北原白秋、西條八十、野口雨情の作詞で多くの曲を作った。中山が作曲した作品は、童謡、新民謡、流行歌、学校の校歌・社歌など合わせて1,770曲以上にのぼる。(中山晋平記念館「晋平の作品紹介より」http://www.city.nakano.nagano.jp/shinpei/index.htm)
主な代表作は、「シャボン玉」、「証城寺の狸囃子」、「ゴンドラの唄」、「東京行進曲」など。晩年は、日本文化協会や日本音楽著作権協会の理事長、紅白歌合戦の審査委員長などを務めた。
No. | 曲 名 | 作 詩 | |
1 | あの町この町 | 野口雨情 | |
♪あの町 この町 日が暮れる 日が暮れる | |||
2 | アメフリ | 北原白秋 | |
♪雨雨ふれふれ母さんが 蛇の目でおむかいうれしいな | |||
3 | 雨降りお月さん | 野口雨情 | |
♪雨降りお月さん 雲の蔭 | |||
4 | 鶯の夢 | 野口雨情 | |
♪梅の小枝で 梅の小枝で鶯は 雪の降る夜の 夢を見た | |||
5 | 兎のダンス | 野口雨情 | |
♪ソソラ ソラ ソラ兎のダンス タラッタ | |||
6 | おみやげ三つ | 西条八十 | |
♪おみやげ三つに たこ三つ おみやげ三つは だれにやろ | |||
7 | 蛙の夜まわり | 野口雨情 | |
♪蛙の夜まわり ガッコ ガッコゲッコ ビョン ビョン | |||
8 | 肩たたき | 西条八十 | |
♪母さん お肩をたたきましょう タントン タントン | |||
9 | 木の葉のお船 | 野口雨情 | |
♪かえる燕は 木の葉のお船ネ 波にゆられりゃ | |||
10 | 黄金虫 | 野口雨情 | |
♪黄金虫は 金持ちだ 金蔵建てた 蔵建てた | |||
11 | 里ごころ | 北原白秋 | |
♪笛や太鼓に さそわれて 山の祭に 来て見たが | |||
12 | シャボン玉 | 野口雨情 | |
♪シャボン玉飛んだ 屋根まで飛んだ 屋根まで飛んだ | |||
13 | 証城寺の狸囃子 | 野口雨情 | |
♪証 証 証城寺 証城寺の庭は ツツ月夜だ | |||
14 | 砂山 | 北原白秋 | |
♪海は荒波 向こうは佐渡よ すずめ啼け啼け | |||
15 | 背くらべ | 海野厚 | |
♪柱のきずは おととしの 五月五日の 背くらべ | |||
16 | たあんきぽうんき | 北原白秋 | |
♪たあんき ぽうんき たんころりん 田螺が | |||
17 | てるてる坊主 | 浅原鏡村 | |
♪てるてる坊主 てる坊主 あした天気に しておくれ | |||
18 | 風鈴 | 野口雨情 | |
♪風鈴さんが ちんちん鳴ると 涼しそう | |||
19 | 兵隊ゴッコ | 酒井良夫 | |
♪熊笹 ホイサッサ 風吹きゃ ホイサッサ | |||
20 | ぺたこ | 野口雨情 | |
♪ぺたこ おっかさん しろい ぼうし もろた | |||
21 | 毬と殿さま | 西条八十 | |
♪てんてん手毬 てん手まり てんてん手まりの |
CD
日本コロムビア
ビクターエンタテインメント
・「楽譜+シンセ音源 ピアノ伴奏のみ」の音源は、メロディーなしの伴奏だけの音源です。
・「合唱:女声三部」は、「童謡・唱歌コーラスワールド特集 第2弾」によるものです。