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やっぱり音楽は素敵だ! クラシックよもやま話 a la Capriccio Vol.2

Vol.2 プッチーニ:歌劇『トゥーランドット』(演奏会形式)

こんにちは。音楽ディレクターの国崎です。今回は、昨年(2015年)12月に発売になった、プッチーニのオペラ《トゥーランドット》のCD(SACD)をご紹介します。指揮は、まだ20代後半の若きマエストロ、アンドレア・バッティストーニ。彼が紡ぎ出す音楽が本当に素晴らしいので、一にも二にも聴いていただきたいのですが、特筆すべきは、サントリーホールにおける「演奏会形式」での公演のライヴ録音(2015年5月)だということ。

ステージには通常のオーケストラ公演のように楽器が並び、当然ながら舞台セットは無し。歌手はオーケストラ前のわずかな空間で歌い、演技は最小限。合唱は舞台後方のP席に。このような演奏会形式のオペラは、「格下」扱いされがちですが、この演奏会はそもそも趣が違いました。歌手たちと並んで、「オーケストラも、共に主役」だったのです。

プッチーニ遺作のこのオペラ、物語の心象描写を担う管弦楽が、斬新なアイデアをたくさん盛り込みながら、実に精緻で目の詰んだ書法で書き上げられています。オケピットからステージに上がったオーケストラ(東京フィルハーモニー交響楽団)は、まさに水を得た魚。スコアの隅々までが聴こえる演奏会形式の強みを生かし、冒頭の衝撃的な開始から圧巻のフィナーレまで、雄弁極まりない生命力溢れる演奏で満席のお客さんの耳を奪い、心を鷲掴みにしたのです。《トゥーランドット》ってこんなに凄いオペラだったっけ? イタリアからの主役2名含め、歌手陣・合唱も大健闘。終演後は、割れんばかりの拍手とブラヴォー、スタンディング・オベーションに会場は沸き返りました。

指揮者バッティストーニはいいます。「もともと、コンサート(演奏会)形式でオペラを演奏するというのは、とてもデリケートな面があります。《トゥーランドット》は音楽だけで演奏しても大丈夫な作品です。大変洗練されているし、オーケストラ部分が非常によく書かれていてシンフォニー的です。その中には20世紀の音楽、ラヴェルやストラヴィンスキーの影響をたくさん聴くことができる。バルトークも。プッチーニはこれらの作曲家を知っていて勉強していますから。」(インタビュー記事より抄録 http://opera.jp.net/archives/1941)

実はこの公演、バッティストーニにとって、東京フィルの首席客演指揮者に就任して初めての「定期演奏会」登場という、特別な演奏会でした。彼は、蜜月関係にある東京フィルとの特別な演奏会に、自身が最も愛し演奏会形式を強みにできるオペラを選んだのです。バッティストーニの指揮に歌手・合唱・東京フィルが全力で応えたこの公演、足を運ぶことができたお客さんは幸せでした。私自身も、この伝説的な公演をディスクとしてご紹介できることを、収録スタッフの一人として大変嬉しく思っています。機会がございましたら、是非お聴きになってみてください。
  • プッチーニ:歌劇『トゥーランドット』(演奏会形式) 指揮:アンドレア・バッティストーニ
    演奏:東京フィルハーモニー交響楽団、
    ソリスト:トゥーランドット/ティツィアーナ・カルーソー(ソプラノ)
    カラフ/カルロ・ヴェントレ(テノール)
    リュー/浜田理恵(ソプラノ)
    ティムール/斉木健詞(バス)
    アルトゥム皇帝/伊達英二(テノール)
    ピン/萩原 潤(バリトン)
    パン/大川信之(テノール)
    ポン/児玉和弘(テノール)
    官使/久保和範(バリトン)
    合唱:新国立劇場合唱団(合唱指揮:冨平恭平)
    児童合唱:東京少年少女合唱隊(合唱指揮:長谷川久恵)
    日本コロムビア
    商品番号 COGQ-85〜6
    2015年12月発売
    定価 本体3,800円+税

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イラスト:村越陽菜(むらこしはるな)