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山田耕筰特集

山田耕筰と巣鴨教会

渡辺善忠(巣鴨教会牧師)


 山田耕筰が少年時代に教会に通っていたことは、近年、広く知られつつあります。耕筰自身は自叙伝『はるかなり青春のしらべ』の中で、巣鴨教会の付属施設であった「自営館」で印刷工の見習いをしていた時代に、教会の周囲にからたちの花が咲いていた思い出を北原白秋に語り、白秋の詩によって「からたちの花」が作曲された経緯を述懐しています。またこの自叙伝には、耕筰少年が巣鴨教会の礼拝に足繁く通っていたことも記されています。明治から大正にかけては、教育用に使われていた唱歌の多くが欧米の賛美歌の影響を受けていたことから、幼少の頃に教会に出入りしていた耕筰少年は、教会で歌われていた賛美歌から深く影響を受けたと考えられています。
 特に昨今は、明治期にアメリカから来日した宣教師たちが、唱歌教育に欧米の賛美歌を用いたことについての研究が活発になっています。巣鴨教会に近い地域では、唱歌教育の最初期に音楽教育を受け東京音楽学校(現:東京芸術大学)で教鞭を取った岡野貞一(「故郷」の作曲者)が、巣鴨に近い本郷中央会堂(現:日本基督教団本郷中央教会)のオルガニストであり、岡野の作品の多くが、賛美歌の影響を受けていたことが典型的な例であると言われています。また音楽以外の分野では、東京帝国大学の教師を勤めていた時代の夏目漱石が、巣鴨と本郷の間の小石川に住んだ時期があり、画家の岸田劉生も少年時代の一時期を巣鴨教会の自営館で過ごしました。このことから、帝国大学や東京音楽学校を中心とした知識層は、上野から本郷、小石川、巣鴨界隈を含む広い地域に文化圏を築いていたと思われます。当時、巣鴨教会の牧師であった田村直臣も、明治期を代表する知識人の一人であったことから、耕筰少年は、巣鴨教会だけにとどまらず、巣鴨から本郷、上野にわたる地域の豊かな文化に感性を育てられたと言えましょう。
 耕筰が残した曲の多くは、直接キリスト教に関わっておりませんが、耕筰の音楽的な感性が教会で育てられたことは、明治期におけるキリスト教文化の豊かさが背景にあります。このたびの音楽専門館「山田耕筰特集」においては、明治期から昭和にかけて、多くの音楽家たちが、キリスト教の賛美歌をルーツとする唱歌教育に育てられたことをおおぼえ下さることによって、耕筰の音楽をより深く味わって頂ければ幸いです。

渡辺善忠 青山学院大学、東京芸術大学卒業、東京神学大学大学院修了。巣鴨教会牧師、KAY合唱団、カンタータ・ムジカ・Tokyo指揮者、青山学院女子短期大学、聖学院大学非常勤講師。

山田耕筰(やまだ・こうさく)(1886-1965)

作曲家、指揮者。国際的な評価を得た最初の日本人音楽家。
東京市本郷(現在の東京都文京区)に生まれる。
1908年、東京音楽学校(現在の東京芸術大学)声楽科を卒業し、その後、ベルリンに留学、ブルッフなどの元で作曲を学ぶ。
1915年、東京フィルハーモニー会管弦楽部の指揮者に就任(翌年解散)。
また1924年には近衛秀麿と現在のNHK交響楽団の前身である「日本交響楽協会」を創立するなど、日本における交響楽やオペラの確立に大きな役割を果たした。
また1922年には詩人・北原白秋と『詩と音楽』を創刊し、日本語の抑揚を生かした歌曲や童謡を数多く残すなど、大正・昭和の日本の音楽界では常に中心的存在であった。
「赤とんぼ」「ペチカ」「砂山」「待ちぼうけ」「からたちの花」「この道」「かやの木山の」「鐘が鳴ります」「中国地方の子守唄」などの代表作がある。

No. 曲 名 作 詩
1 赤とんぼ 三木露風
♪夕焼 小焼の あかとんぼ 負われて見たのは
2 あわて床屋 北原白秋
♪春は早うから 川辺の葦に 蟹が店出し 床屋でござる
3 お月夜 北原白秋
♪トン トン トン あけてください どなたです
4 お山の大将 西条八十
♪お山の大将 おれひとり あとから来るもの つきおとせ
5 かえろかえろと 北原白秋
♪かえろかえろと なに見てかえる
6 カッコ鳥 野口雨情
♪山でカッコカッコ カッコ鳥啼いて 山でカッコカッコ
7 かやの木山の 北原白秋
♪かやの木山の かやの実は いつかこぼれて ひろわれて
8 からたちの花 北原白秋
♪からたちの花が咲いたよ 白い 白い 花が咲いたよ
9 きつねのちょうちん 野口雨情
♪きつねの堤灯 ボウ
10 仔馬の道ぐさ 北原白秋
♪道草しずと 早よ駈け仔馬 かるかや桔梗
11 この道 北原白秋
♪この道は いつか来た道 ああ そうだよ
12 すかんぽの咲くころ 北原白秋
♪土手のすかんぽ ジャワ更紗 昼は蛍が ねんねする
13 砂山 北原白秋
♪海は荒波 向こうは佐渡よ すずめ啼け啼け
14 川路柳虹
♪ダンス始めた つばくらめ 軒に柳の 葉はそよぐ
15 とんぼがえり 三木露風
♪すかんぽは 酸いな 芽花の茎 あまいな
16 ペチカ 北原白秋
♪雪のふる夜はたのしいペチカ ペチカ燃えるよ
・「合唱:男声四部」は、ダークダックスによる編成です。
・「楽譜+シンセ音源 ピアノ伴奏のみ」の音源は、メロディーなしの伴奏だけの音源です。
・「合唱:男声四部」は、ダークダックスによる編成で、音源は楽譜全体(メロディー+伴奏)をシンセサイザーで忠実に再現した音源です。
2007年1月14日「親子で歌いつごう 日本の歌百選」(文化庁・(社)日本PTA全国協議会主催)が発表されました。
同年、日本コロムビア株式会社が発売した「童謡ベスト30」と「日本の歌百選」のCDの音源から、北原白秋の曲を集めました。
NO. 曲 名 童謡ベスト30 日本の歌百選 アーティスト
1 赤とんぼ 声入り ▷ カラオケ ▷ 声入り ▷ 山野さと⼦