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北欧ときめき情報〜Wind from the north Vol.6

Vol.6 老いる悲しみと寄り添うこと

秋風が吹き始め、木々の葉っぱもいくぶん色づいてくるノルウェーの9月。各地の学校や教会では、秋のバザーが始まります。なかには、金曜日から日曜日まで3日間にわたって行われる大規模なものもあり、新聞にも広告が載ります。私はこのバザーが大好きでした。掘り出し物探しもワクワクしますが、ひと昔前の実用品を前に、店番の方々からノルウェー人の暮らしについて話を聞くのが大きな楽しみでした。各学校でのバザーの収益金は吹奏楽クラブの楽器購入などに使われています。

少年バッレとエミリアおばあさんとのお話です。認知症(またはアルツハイマー病)となったエミリアおばあさんの不思議な言動を孫のバッレは戸惑いながらも優しく受け入れていきます。ノルウェー語でもスウェーデン語でもケアcareをomsorgと言います(福祉の専門家によると、英語のcareとomsorgは指し示す内容が違うようなのですが…)。いずれにしても、sorgは悲しみを意味しますから、私はケアとは人の悲しみに寄り添うことなのだと理解しています。この本では、何気ない日常の中でバッレがエミリアおばあさんの悲しみ、不安と寄り添う姿が描かれています。「バニラソースの家」とは、エミリアおばあさんがクリーム色の高齢者用入居施設を「ブルーベリーケーキにかけるソースのよう」と言ったことに由来しています。そういえば、私の大家さんだったカーリさんもいつもケーキや果物にバニラソースをかけていました。コラージュの技法が使われたデザイン的にも優れたスウェーデンの絵本です。

愛情があるからこそ苦言を呈する

今、日本でも人気の北欧のデザイン。残念なことに、「スローライフ」といった象徴的な言葉や美しい写真とともに、北欧のデザインをただ単に賞賛するといった紹介の仕方がほとんどのため、私が北欧デザインの本や雑誌を手に取ることはめったにありません。しかし、今回ご紹介する書籍は日本のインテリアデザイン界の重鎮であり、1950年代にデンマークへ留学をなさった経験をお持ちの島崎信さんによるものです。ながく北欧とかかわってこられた経験に加え、今回、数多くのノルウェー人デザイナー、建築家、家具会社(工房)を取材なさって書かれた書籍で、充実した内容となっています。現在のノルウェーでのプロジェクトやノルウェーデザインの歴史的背景はもちろん、ノルウェー人の精神性やノルウェーの歴史や風土、政策にまで触れ、デザインだけでなく、ノルウェーの全体像を理解することができます。ノルウェーへの愛情はもちろん、若いデザイナーへのちょっとした苦言など、客観的な視点が心地よい一冊です。

私が欲しいのは「全自動おめざめ機」

教育大国となったフィンランド。今年1月、フィンランドの音楽教育を取材するため、ヘルシンキの小学校や音楽学校を訪ねました。特別な授業が行われ、大人びた、おりこうさんな子どもたちばかりがいるのかと思って出かけたのですが、実際はそうではなく、授業はごく普通で、子どもたちもみんな明るく、やんちゃで元気。ホッとしたのを覚えています。そんなフィンランドの子どもたちが大好きな絵本をご紹介します。こんなことができたら嬉しいな、こんなことはするなんて面倒くさいなという、どんな子どもにも共通な思いが、タトゥとパトゥが発明した14の機械という形で描かれています。とにかく、どの機械も「へんてこ」です。鍵を忘れると困るので、大きな鍵のついたヘルメットをかぶるという奇想天外なアイディア(自分の体を回すことになるのでドアを開けるのはたいへんです)から、子どもの権利を話し合う国際会議に当事者である子どもが出席できないのはおかしいから出席できるように髪の毛や髭をはやして大人になりすますという社会派のアイディア、そして、アイスクリームのボールでバレーボールをするという夢いっぱいのアイディアまで、自然と笑顔になってしまう絵本です。

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イラスト:村越陽菜(むらこしはるな)