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北欧ときめき情報〜Wind from the north Vol.4

Vol.4 カーリさんの思い出と高齢者の《孤独》

北欧は夏休暇の真っただ中。6週間の夏休暇を取り、人々は山や海辺にある別荘で過ごしたり、海外のリゾート地に出かけたりと、ゆったりとした時間を過ごしています。知人から、最初の1週間で仕事から休暇へと頭と体を切り替え、最後の1週間で仕事のモードへ頭と体を切り替えると聞いたことがあります。代わりに、この期間、街にあふれるのは日本をはじめとする海外からの観光客。時間に追われる観光客は早足で街を歩き、忙しそう…。いつもの落ち着いた街とは違う、夏だけの喧騒です。

私はノルウェーの田舎で音楽療法を学びました。田舎の大学に寮などなく、学生はみな一般のお宅に間借りをしていました。私が間借りをしたのはカーリさんのお宅。当時、カーリさんは83歳で、学校の音楽教師だったご主人をずいぶん前に亡され、広い家にひとり暮らしでした。3人の娘さんはお母さんのことを気遣い、休みになればご家族とお母さんを訪ね、そんな時には私もよく食事や午後のお茶をご一緒しました。娘さんは「一緒に暮らそうと言っているのだけれど…」とおっしゃっていましたが、カーリさんはひとり暮らしを選んでいました。週に何回かは町のグループ活動に参加し、近所の方もおしゃべりをしにカーリさんを訪ねてきていました。それでも、カーリさんがよく言っていたのは「ひとりはつまらないから音楽療法の学生にいつも部屋を貸している」ということ。この言葉を聞くたびに、高齢者のひとり暮らしと《孤独》ということをよく考えたものでした。今回ご紹介するのは、デンマークの高齢者25人が書いた自らの《孤独》を25人の写真とともに一冊の本にまとめたものです。配偶者や家族の死による喪失感、病気などによる疎外感などを通して《孤独》が語られるとともに、人の、どんな状況であってもよりよく生きていきたいという思いと現実、そして葛藤が描き出されています。

北欧音楽のおすすめ本

「ノルウェー音楽の本を読みたいのですが、どんな本がよいですか?」こんな質問をいただくといつもご紹介しているのがこのエドヴァルド・グリーグの伝記です。児童書のため、文字が大きく、文章量は決して多くはないのですが、内容は詳細で、正確。グリーグについて知っておきたい事項はすべて網羅されています。また、グリーグに大きな影響を与えたノルウェーの民俗音楽や自然が多くの写真とともに解説されるなど、ノルウェーについて知るための本としても優れたものです。また、グリーグやグリーグと親交のあった人たちの残した言葉も印象的ですし、特に巻末の年表は充実しています。北欧音楽に関する日本語の本が少ない中、貴重な1冊です。

バックナンバー

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イラスト:村越陽菜(むらこしはるな)