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童謡ってすてき!! ~ 童謡歌手がお贈りする 私のお勧めの5曲

童謡、それは子どもための歌の宝庫。
その中から現代を代表する童謡歌手たちが選りすぐり、「わたしのとっておきの歌」をご案内します!!

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高橋 寛

童謡の心いつまでも~オールジャンルで活躍中の舞台人

東京藝術大学卒業。R.I.財団奨学生として、イタリア国立G.Verdi音楽院に留学。声楽を柴田睦陸、吉岡巌他に師事。12才でTBSこども音楽コンクール“独唱の部”全国第1位。大学時代より舞台活動を始め、歌手・役者として全国を巡演。ジャンルを問わぬ歌手として、また、舞台芸術の演出家、合唱や「人間オーケストラ」の指導者としても活躍するマルチ・エンターティナーである。2012年2月には、新国立劇場中ホールにて小松原庸子フラメンコ舞踊団公演の演出も手がけ好評を博す。2015年、(社)日本童謡協会より、第45回『日本童謡賞・特別賞』を受賞。羽陽学園短期大学教授。音楽集団「みゅ~じ館」代表。「UTABITO-YAMAGATA」メンバー。「タウベンコール」「御徒町フラウエンコール」「ラ・ジケローソ」「アンサンブル・ルポゼ」指導者。

朧月夜 作詩:高野辰之/作曲:岡野貞一

ずっと昔、幼稚園児の私が住む小さな一軒家は、造成された宅地の端っこにあった。そこから南側には菜の花畑や田んぼが続き、その中の細い農道に立つと、国鉄・左沢(あてらざわ)線の鉄橋までが見渡せた。夕方、仕事先から帰宅した父にせがみ、その道を散歩するのが最大の楽しみだった。野良着になって父は手を繋ぎ、私とゆっくり歩きながら、「朧月夜」を歌ってくれたのである。そのうち、私も一緒に歌うようになり、色々な童謡や唱歌を父から教えてもらった。鉄橋の彼方には蔵王の山並み、西に最上川と遥かな朝日連峰、振り向けば真っ白な月山。そして、見上げるといつも父の笑顔があった。毎年、里山が様々な春色になると、この歌とともに父との散歩を思い出す。

浜千鳥 作詩:鹿島鳴秋/作曲:弘田龍太郎

記憶とともに味わえるのも、童謡の魅力の一面!共働きの両親を持つ私は、昭和の後半から弟と二人で遊びながら父の帰りを待つ姿は、山形の田舎町では珍しがられた。帰りが遅い母は時々、職場の同僚(音楽の先生)を連れてきた。その人の勧めで、私は歌も修行開始。小太りのボーイ・ソプラノは、とあるコンクールで全国一位を受賞、その時に歌った曲がこの「浜千鳥」だ。「鍵っ子」であるがゆえのやるせなさ・寂しさが表現できたのかもしれない。審査委員長の柴田睦陸(当時:東京芸大教授)氏からの「変声期が終わって歌を続けけたい時は連絡を」との言葉に導かれて、私の今がある。

やぎさんゆうびん 作詩:まどみちお/作曲:團伊玖磨

何とも面白く、口ずさんでしまうこの作品は、幼児を対象とした企画では定番である。子どもたち数人に郵便屋さんとして参加してもらうのだ。手順は、下手側に立つ女性歌手(白やぎ役)が長めの前奏中に手紙を書き、子どもAに「お願いね」と配達を依頼。客席周りに配置した子どもB、C、Dにリレーされ「お願いね」と手紙が運ばれていく。最後の子どもEは上手側の男性歌手(黒やぎ役・私)に「郵便です」と届ける。読みかけたがクンクンし食べてしまう黒やぎ。慌てて返事を書き、子どもEに「お願いね」と逆配達を依頼する・・と前奏が終わり1番を歌われる。この作業を1往復半したら「・・終わらないねえ・・」と泣きの台詞で終了。手紙の食べ方には、ちょっと自信がある。

赤鬼と青鬼のタンゴ 作詩:加藤直/作曲:福田和禾子

あの噺家の出囃子、このアニメーションの主題歌、そして料理番組ならアレ・・という具合に、 テーマ曲が存在感を増すのは、企画が長期間に渡り継続した場合である。松戸市で毎年2月に開催の「障害児・者とともに楽しむコンサート」に30年間出演し続けたが、この曲が流れると『寛ちゃんワールドが始まる!』というムードが数回目から定着した。踊り歌いながら登場し客席の皆さんに「一年ぶりですね」と挨拶して開演。90分のコンサートの最後は必ず「エーデルワイス」。企画の枠組みが同じだと安心する客席の皆さんを、このタンゴを歌う度に懐かしく思い出す。絶妙なオノマトペとな音楽!「ロン、ロン、ツン、ツン」と長年の得難い経験で、演者も成長させてもらった。

カボチャ物語 作詩:佐藤雅子/作曲:鈴木重夫

日本童謡協会の童謡祭(新作童謡のお披露目会)にも30年以上も出演させてもらい続けている。そこで生まれたこの曲は、私のお気に入りの一つだ。旧・虎ノ門ホールでの初演は、故・水木一郎氏。チャチャチャのビートにオリエンタルなメロデイー、カボチャの名前の由来とお料理名の数々、そしてその性格や武勇伝、利便性まで網羅した言葉のマジック。多趣味で飽きっぽい私には、程良い難易度と両作家からの「自由に歌って!」の励ましもあり、私の舞台では常連曲となっている。歌い終わって「お料理の数と名前は?」とクイズ。子どもはきっちり記憶、恐るべし。つまり、しっかり聴いているのだ。『持ち歌』の如く愛するこの作品なら、私は、認知症を患っても歌えそうな気がする。

楽譜・音源情報

塩野 雅子

童謡を歌曲のように歌い、人の心を豊かにしたい…

5歳より安西愛子・杉の子こども会(声楽科)に入会。国立音楽大学付属音楽高等学校 音楽科を経て国立音楽大学声楽科卒業。声楽を久城理絵子、岡部徳三、小野邦代に師事。音大在学中よりキングレコードにおいて「NHKみんなのうた」カヴァーバージョンのレコーディングや童謡コンサートを行う。海外ではイギリス スコットランドで開催される「アバディーン青少年国際フェスティバル」やフランス アルザス地方にて「日本のうた コンサート」に出演。舞台ではBunkamura オープニング企画「ホフマン物語」オランピア役で出演。 ホフマン役の草刈正雄氏と共演する。またBunkamura オーチャードホールにてトミタ・サウンドクラウド・オペラ「ヘンゼルとグレーテル」のヘンゼル役で2年連続で抜擢され好評を博す。高嶋ちさ子プロデュース「12人のヴァイオリ二ストのコンサート」や加羽沢美濃の「親子で聴くクラシックコンサート」に出演する。現在は日本の歌を中心としたコンサート活動を続けている。

花かげ 作詩:大村主計/作曲:豊田義一

子供の頃、安西愛子先生のところで童謡のお稽古に通っていました。毎年行われる発表会。この曲を歌いたかったのですが当時はかなりの合唱ブーム、生徒も多い上に人気の曲だったので私には残念ながら回って来ませんでした。

いつしかそんなことも忘れて、童謡の世界に入るキッカケとなったレコーディングでまさかこの曲を歌う事になるなんて!世の中って不思議な繋がりがありますね。

ゆりかごのうた 作詩:北原白秋/作曲:草川信

皆さんは子守唄を聞いて育ちましたか?私はそういった経験がありません。私の母は自分が歌うことで娘が音痴になってはいけないという理由で子守唄を歌いませんでした。だから子守唄の記憶がないのです。やがて歌の道へと進み、母親となった私は、母と異なり我が子の寝かしつけには毎晩子守唄を歌っていました。

子守唄は子供の成長と共にいつしか歌わなくなります。そんな中、大人になるまでに数回「子守唄を歌って欲しい」とせがまれた事がありました。背中をトントン…と叩かれながらこの曲を聴くと自然と心が落ち着くのだそうです。

いつしか娘も母となった時、子守唄を歌うことでしょう。

みかんの花咲く丘 作詩:加藤省吾/作曲:海沼実

私の母は身体が弱くあまりお出かけすることがなかったので、これは数少ない思い出のひとつです。母と千葉県鋸南町に出かけた時のことです。夕暮れ迫る時間、そこかしこと咲き乱れる日本水仙の里に辿り着きました。人もまばらだったので車で山の奥へ奥へと進んで行きました。いつしか山間の段々畑。そこにはたくさんの日本水仙の白い花が、夕日に向かってふわぁ?っと浮かび上がりまさに桃源郷でした。

ふと振り向くとぽつんと一軒家。放し飼いされていた柴犬がちょこんと私たちと同じように日本水仙を眺めていました。「あぁ、きっと犬にもこの美しさが分かるんだね」と話していたら、なんとその直後、気持ちよさそうにマーキング。その光景がおかしくて可笑しくて母と大笑い。

「みかんの花咲く丘」、この歌を歌う時、楽しかったこの思い出を浮かべながら歌ってます。

好きな風景 作詩:やなせたかし/作曲:上 明子

あるコンサートで聴いた時のことです。「花が好き 歌が好き 夢が好き」、この詩が心にふれ、その場に居合わせた作曲家にこの譜面が欲しいとお願いしたのがこの歌との始まりでした。

作詞は やなせたかしさん。「風が好き 海が好き 空が好き この人生が好きあなたが好き わたしたちをつつむ光が好きです」この歌の一節ですが、長く歌っていると、この歌の登場人物が変化していきます。最初は夢見る乙女?!の憧れの人、次は生涯の伴侶、そして家族。この歌が私の人生と共に成長し続けていることに驚かされました。

さて皆さんはこの歌を聴いた時、歌った時にどんな方との風景が浮かぶのでしょう?

ふるさと 作詩:高野辰之/作曲:岡野 貞一

もうこの曲はひとりでは歌えません。私の大切な思い出の1曲だから。母との最期のお別れで歌った曲だから。母からはそれまでどんな歌も歌って欲しいとお願いされたことはありません。でも亡くなる前に1度だけお願いされたのです。

大きく目を見開いて私の歌を聴き、歌い終わった後「ありがとう」のひと言。これが最期の言葉でした。それから穏やかな優しい時間が流れたことをいつまでも忘れたくない、壊したくないのでもうひとりは歌いません。だけど大切な、大切な1曲なんです。

楽譜・音源情報