ゆーたん音楽堂[音楽専門館]

週めくり ゆ〜たん音楽堂《音楽万華鏡》

21世紀的音楽取調がかり Vol.1

滝口幸子

 はじめまして!この度「ゆ〜たん音楽堂」に新しく仲間入りした滝口幸子です。ここでは、世界の諸民族の音楽に関する本やCD、イベントなどから、音楽が世界でどんな風に聴かれているのか紹介していきたいと思います。どうぞよろしくお願いします。

 まず初回は、私もフィールド調査で度々訪れている、中東欧の音楽を扱ったこちらの本の紹介から。


  • 伊東信宏 著
  • 岩波書店
  • 2009年3月刊
  • ISBN 978-4000238557
  • 定価 本体2900円+税
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 昨年、第31回サントリー学芸賞〔芸術・文学部門〕を受賞したので、ご存じの方も多いのではないでしょうか。

 この本の面白いところは、筆者自らも『いわゆる「音楽史」的常識とはズレている』と認める独自の視覚にあります。その独自の視覚とは、ヨーロッパの音楽文化の中で、これまで真面目に取り上げられてこなかった楽師たち、とりわけロマやアシュケナジームといったエスニック・マイノリティの人々に光を当てているところです。

 ここで、ロマとかアシュケナジームって何?と思われた方、ロマは、自分たちの国を持たず、世界各国で生活している民族のことです。もともとの出身はインド北西部。ここから何らかの理由で西側に移動を始め、ヨーロッパには13世紀頃までに到着していました。一方アシュケナジームとは、主に東欧圏で暮らしていたユダヤ人のこと。彼らは今ではイスラエルを建国しましたが、多くはアメリカを筆頭に、やはり世界に分散して暮らしています。

 これまでのヨーロッパの音楽文化は、宮廷・宗教音楽./各国の農民たちの音楽という二層構造で説明することが長い間あたり前とされてきました。しかしもうひとつの層として、実は彼らのような楽師たちが、国籍や民族性に左右されず、自分たちの身近に住む人々を楽しませるために様々な音楽を提供してきたのです。本書では、このいわゆる社会の底辺にいる彼らが、クラシック音楽や民俗音楽、ポピュラー音楽といったジャンルを超えて、多くの大作曲家(ストラヴィンスキー、コダーイ、レハールなどなど)や演奏家にインスピレーションをもたらし、また各地の音楽文化の発展にどれだけの影響を与えてきているのか、実際にその地を訪れた筆者の等身大の目線から描かれています。

 加えて私が興味を惹かれたのは、筆者が序の中で、彼らの音楽が遠く海を越えて日本の音楽ともつながりのあったことを指摘している点。今日自分の聴いた音楽が、ヨーロッパからどれほどの空間と人々の間をめぐって日本まで届けられたのか、少し思いを馳せてみるのも面白いかもしれません。